安全で効果的なストレッチ
身体をよく動かしている10代、20代の若いときは、何をしてもいたくなりません。年齢を重ねて、仕事のデスクワークが生活の中心となると、思いっきりねじったり、思いっきり反ったりすることがなくなります。気が付かないうちに、可動域は狭くなり、動かさなくなった部分が硬くなっていきます。特に硬くなりやすい部分は、首から腰までの脊柱とそれに関係する肩と股関節です。その硬さが姿勢の崩れや負担の1カ所集中を生み、その結果生じる負の産物が肩こりや五十肩、首の痛み、腰痛です。
ですから、痛い部分を揉んだり、回してみたりしても一時的な解消でよくはなりません。根源である脊柱の硬さをストレッチで改善しなければなりません。
ストレッチは、安全で効果的な状態で行うことが大切です。立ったり、座ったりしている姿勢は、重力に抵抗して身体を支えているために、すでにさまざまな筋肉が緊張しています。ストレッチは筋肉を伸ばすことが目的ですが、筋肉は緊張しているので伸ばしにくいうえに痛めてしまう可能性があります。
筋肉が緊張していない状態でストレッチをするにはどうしたらよいでしょう。それは、横になることです。寝たままでストレッチをする。これが安全で効果的な方法です。
危険なオーバーストレッチ
琴奨菊というお相撲さんがいます。制限時間いっぱいになると、手で塩をつかみ、上体を大きく後ろにひっくり返るほど反らせます。ここで歓声が沸き上がりますが、身体の柔らかさに対する感嘆も含まれているのでしょうか。これは、ストレッチというより、士気を高めるルーティンだと思いますが、お相撲さんなら誰でも同じポーズができるでしょう。お相撲さんはみんな身体が柔らかいのです。180度の開脚もみなさんできます。開いたまま前にベタっとつきます。
相撲の世界では股割りと呼んでいますが、新弟子に入ってまず泣かされるのが、この股割りだそうです。ハワイから来たジェシー君という少年が泣きながら股割りをして、やわらかい身体の基礎をつくったという話は有名です。元大関の高見山です。背中にお相撲さんが3人くらい乗っかって、無理やり開かない足を開いたという話が伝わっていますが、これは危険なやり方です。
一般の人がこういうやり方をしたら、筋肉が断裂しり、ぎっくり腰や椎間板ヘルニアになったりします。重力に抗した姿勢でかがむのですから、無理なやり方は危険です。
180度開脚ストレッチは、背骨に重力がかかっている状態で、前かがみをします。椎間板は前が圧迫されるので、後ろに飛び出ようとします。ヘルニアになってしまう人もいれば、椎間板が少し切れてしまう人、後ろに靭帯が伸びて切れてしまう人などが実際にいますので、無理に頑張らないようにしてください。もちろん、身体は柔らかい方がいいので、開脚ストレッチは安全にやれていればとてもいいことです。
筋肉のストレッチはやった量に比例しますから、痛くても無理やりやれば早く伸びます。早く伸びるのは、筋肉の繊維をプチプチっと切っているからです。そのため、効果が出るのは早いのですが、筋力は落ちてしまいます。そのあとにトレーニングすると、パフォーマンスが落ちているのがわかるはずです。
正しいストレッチの方法
筋力を落とさないようにストレッチをやろうとしたら、ちょっと痛いところで止めないといけません。「痛いのがリハビリだ」「痛いくらいやらないと効果が出ない」と思っている方がいますが、それはオーバーストレッチです。痛みが出るのは、筋肉がちぎれてしまって炎症が起きている証拠です。
●反動をつけていいか?
反動をつけると筋肉がちぎれる可能性があります。反動をつけずに、ちょっと痛いところまで伸ばしたら、そのポーズで止まってストレッチするのが安全です。
●ストレッチはどれだけやればいいか?
ちょっと痛いところまでストレッチして、その姿勢でまずは10秒維持します。数日試してみて何も問題がなければ、20秒、30秒と少しずつ増やします。1回は30秒までとします。それ以上やると、筋力が落ちる可能性があるからです。
●では、30秒を何回行えばいいか?
ストレッチの効果はやった量に比例しますから、5回、10回、20回と増やせば増やすほどいいことになります。ですが、さすがに限界はあります。さまざまな研究における解答は、「3回おこなうのがよい」です。5回くらいまでは少しずつ効果はあがるのですが、3回やったときと大きな差はなく、それ以上例えば10回やったとしても効果に差はありません。
●ストレッチは毎日欠かさずやらなければいけないか?
こんな事実が明らかになっています。毎日ストレッチするのと、週3日やるのとでは、効果は変わらない。驚きですね。ですから、毎日できなかったことを苦にしなくてもいいです。週3日できていれば、毎日したのと同じ効果になりますから。
週3日で、反動をつけずに30秒を「少し痛い」くらいまで3回やるのが、筋力も落とさず、安全で、楽で、効果的な方法となります。