深呼吸のすすめ
呼吸の役割は、酸素と栄養を肺や血管を通して、身体のすみずみにまで行きわたらせることです。
その役割が不十分であれば、脳も心臓も筋肉も、活動のレベルが下がります。人間が1分間に呼吸する回数は12~20回。
1日24時間で計算すると、2万回にも上ります。人間は数日間、何も食べなくても生きていけますが、息を止められるのはせいぜい数分間です。
まさに、呼吸は命の根幹を支える機能といえます。しかし、普段から自分の呼吸を意識している人は、そう多くないはずです。逆に、自分の呼吸を意識するときというのは、ちょっとした運動で息切れしたときや、風邪をひいて激しい咳が続いたときなどでしょう。つまり、自分の呼吸を意識するのは、多くの場合、体力の低下や何らかの不調が自分の身体に現れたときです。昨今は、新型コロナウイルス感染症の流行によって、自らの呼吸の状態や肺炎について、気にかけることが増えた方も少なくないと思います。
その24時間で2万回以上する呼吸をつかさどるのは、自律神経です。自律神経には、交感神経と副交感神経があり、車で例えるなら前者がアクセル、後者がブレーキのような役割を果たして心身の正常運転をしています。
しかし、ストレスを受けることが多い現代社会では、多くの方が交感神経優位の生活を送っています。
1分間あたりの呼吸数の目安を紹介しましたが、これは心が安定している場合。不安や緊張、怒りなど、負の感情を抱えているときは、交感神経が優位となり、副交感神経の働きが低下するため、1分間に20回以上の速い呼吸に知らず知らずのうちになってしまう方多いのです。
しかも、その呼吸は速いだけではなく、浅い。ストレスを感じることが多い方は、早くて浅い呼吸が、すでに習慣化している可能性が高いと考えられます。そうなると、脳に運ばれる酸素量が減って、ネガティブな感情から抜け出せなくなってしまいます。不安定な心は自律神経のバランスをさらにかき乱し、血流が悪くなって「だるさ」や「慢性疲労」を引き起こします。そのまま放置しておくと、もっと重大な病気になって目の前に現れてしまうのです。
自律神経がつかさどる生命維持機能は、呼吸のほかに脈拍、血流(心臓)や消化吸収、そして免疫など非常に多岐にわたります。それらの中で、人間が意識して行えるのは呼吸だけです。いくら頭で「消化吸収を速くして」と考えても、腸の活動はよくなりませんし、実感するのも困難です。
でも呼吸は違います。意識すれば、息を止めることも、たくさん空気を吸うことも、ゆっくり息を吐くこともできます。
自らの意識を変えるだけで、浅く、速くなっている呼吸を、深くゆったりとした呼吸にすることが可能なのです。その結果、自律神経のバランスが整い、ベストな自分を取り戻すことができます。
自律神経の状態と血流は密接に関係しています。自律神経のバランスが整えば、酸素と栄養たっぷりの血液を全身に送り届けることができます。また、腸は自律神経の影響を大きく受ける部分です。自律神経のバランスが整えば、腸の働きが活発になり、腸内環境を良好に保つことができます。
それだけではありません。人体には2兆におよぶ免疫細胞があるといわれています。免疫細胞が体内に侵入したウイルスや細胞を退治してくれるから、私たちは日々の健康を保つことができます。
実は免疫細胞の約7割は腸に集中しています。この事実だけでも腸の重要さに驚きますが、さらにすごい働きを腸は持っています。
腸にはウイルスや細菌と闘う準備をする「訓練場」のような場所があり、全身の免疫細胞は流血に乗って訓練場までやってきます。
訓練場で、免疫細胞はさまざまなウイルスと闘う訓練をします。訓練を終えると、血流に乗って全身に戻っていき、それぞれの担当部署でウイルスや細菌を撃退してくれます。つまり、全身の免疫システムは腸が担っているのです。腸内環境が悪いと、免疫システムが正常に働かなくなり、全身の免疫細胞のパワーは衰えてしまいます。
また、流血も重要です。血流も重要です。血流が悪いと、訓練を終えた免疫細胞を身体のすみずみまで送り届けることができません。
腸内環境と血流。免疫アップの決め手となる二つの要素は、いずれも自律神経を整えることによって改善することができます。
つまり、ゆっくりと深い呼吸をして、自律神経のバランスを整えれば、全身の免疫力を高めることにもつながるのです。
ポイントは、息を吸う時間よりも吐く時間を長くすること。吐く時間を長くすると、副交感神経の働きが高まり、自律神経のバランスを整えることができます。24時間2万回以上の呼吸すべてをこのようにするのではなく、毎日の習慣として数分の深呼吸を取り入れてください。