柔らかい身体と硬い身体の違い
身体の柔らかさは、その人の「筋緊張」の問題です。筋肉は基本的につねに緊張しています。これを「筋緊張」といって、脳が司っています。
全身麻酔をかけたら、ぐにゃんとしてどこまでもまげられます。筋緊張による制御が働かなくなってどこまでも弛緩している状態です。逆に、麻痺のある方は、筋緊張が高くなっていて、突っ張ったり、硬くなってなかなか伸ばせなくなったりします。
柔らかい身体があり、硬い身体があるということは、筋緊張には個人差があるということです。これは脳からの電気刺激の問題です。
脳からは、「緊張しろ」という刺激が常に出ています。それでは筋肉は縮まりっぱなしで、動かすことができません。そのため、その緊張を抑えてくれる神経が別にあります。そこが「少し力を抜いて」という刺激を出してくれるので、私たちは自由に身体を動かせるのです。
脳卒中などで「少し力を抜いて」の神経が障害されてしまうと、「緊張しろ」の神経の指令がすべて筒抜けで筋肉に伝わってしまうので、筋肉が縮んでしまい硬くなるのです。なかには「緊張しろ」神経が障害されてしまい、麻酔がかかったように手や足に力が入らなくなる人もいます。この「緊張しろ」神経と「少し力を抜いて」神経の割合で筋緊張は左右されます。「少し力を抜いて」神経の機能があまり働かない人は緊張が強く、それがつまり身体が硬いということになります。反対に、その抑える機能が良く働いて「緊張しろ」という電気刺激が抑えられている人は柔らかい人です。
別々に育てられた一卵性双生児を追跡して遺伝の影響かどうかを検証する行動遺伝学の報告によると、柔軟性の遺伝率は78%となっています。つまり、遺伝の影響が78%で、体操などによる運動の影響が22%というデータが出ています。
病院やリハビリセンターでは筋肉の拘縮を予防するためにストレッチを行います。ですが、ストレッチをしていても日に日に硬くなってしまう人もいれば、ストレッチをしていなくても柔らかさを維持できる人もいます。それは遺伝による個人差の可能性が高いと考えられます。しかし、ストレッチは嘘をつきません。それも科学的に証明されています。個人差はあるかもしれませんが、ストレッチをすれば必ず柔軟性は向上します。
もう一つ硬い理由は、老化によるものです。筋緊張には、もともと個人差がありますが、基本的には、筋肉は動かさなければ硬くなります。子どもの筋肉は柔らかでつねに動いています。骨も椎間板も関節も全部可動域いっぱいまで動いているから柔らかいのです。
それが年齢とともに動きのない生活になってくると、椎間板の中の水分が抜けていき薄くなり、関節の動きも悪くなるので、可動域は減っていきます。これが老化による硬い身体の問題点です。しかし、これもストレッチや体操などより柔軟性を向上させることで痛みが出にくい身体をつくることができます。